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不眠症

「夜、なかなか寝付けない」「何度も目が覚めてしまう」といった睡眠に関する悩みは、多くの方が経験する非常につらい問題です。心や体の休息が十分に取れない状態が続くと、日中の活動にも支障をきたし、大きな苦痛を感じることでしょう。

実は、不眠の約40%は身体疾患が原因です

身体疾患を持つ方の約40%が慢性的な不眠を経験しているのに対し、健康な方では約8%にとどまります。つまり、不眠は「心の問題」である前に、「身体の問題」であることが非常に多いのです。

当クリニックは内科クリニックです。そのため、睡眠の悩みに対して、まず「身体の不調が隠れていないか」を重要視しています。不眠の背景には、糖尿病、甲状腺疾患、呼吸器疾患、心不全など、様々な内科的な病気が潜んでいることが少なくありません。これらは血液検査や身体診察によって初めて明らかになることが多く、内科医として身体面から不眠の原因を探ることができます。
睡眠薬を処方する前に、まず身体を診る。これが内科医としての私たちのアプローチです。この記事では、不眠症のタイプや原因について解説するとともに、特に内科疾患との関連性について詳しくお伝えします。そして、内科医としてどのように不眠に向き合い、解決を目指していくのか、私たちの考え方をご紹介します。

「不眠症」とは? あなたの「眠れない」はどのタイプ?

「不眠症」と一言でいっても、その現れ方は人それぞれです。主に以下の3つのパターンに分けられます。ご自身の悩みがどれに当てはまるか、確認してみてください。

  • 寝つきが悪い(入眠困難)
    布団に入ってから30分~1時間以上、なかなか寝付くことができない状態です。焦りや不安を感じながら、眠れない時間を過ごすこと自体が大きなストレスになります。
  • 夜中に目が覚める(中途覚醒)
    眠っている途中で何度も目が覚めてしまい、その後なかなか寝付けない状態です。時計を見て落胆したり、再び眠ろうとして焦ったりするつらさを伴います。
  • 朝早くに目が覚めてしまう(早朝覚醒)
    自分が起きようと思っていた時刻よりもずっと早くに目が覚めてしまい、まだ眠りたいのに二度寝ができない状態です。十分な休息が取れないまま一日を始めなければならないことに、無力感を覚える方もいます。

なぜ眠れないのか? ~身体と心の両面から考える~

不眠は、それ自体が独立した病気であるというよりも、何か他の問題の「症状」として現れていることが少なくありません。効果的な治療のためには、根本的な原因を特定することが重要です。

こころの不調との関連

睡眠の問題は、うつ病や双極性障害などの精神的な不調と密接に関連していることがあります。しかし、それだけではありません。

からだの病気が隠れている可能性

内科クリニックとして最も強調したいのが、この点です。不眠は、身体的な病気が原因で引き起こされることが多々あります。痛み、呼吸の苦しさ、ホルモンバランスの乱れなどが睡眠を妨げている場合、睡眠薬を飲むだけでは根本的な解決になりません。

ストレスや生活習慣

人生における大きな変化、ストレス、アルコールの摂取なども睡眠パターンを乱す要因となります。特にアルコールは、入眠を助けるように感じられても、実際には睡眠の質を低下させ、中途覚醒の原因となるため注意が必要です。

内科疾患と不眠症の深い関係

ここでは、代表的な内科疾患と不眠の関係について詳しく解説します。多くの内科疾患が、痛み、呼吸困難、夜間頻尿、かゆみなどの身体症状を通じて直接的に睡眠を妨げます。また、治療に用いるお薬が不眠の原因になることもあります。

糖尿病と不眠症の悪循環

糖尿病と不眠症には密接な関連があり、互いに悪影響を及ぼし合う「双方向的な悪循環」を形成することが知られています。実際、糖尿病患者様の最大50%に不眠症が報告されており、糖尿病のない方と比べて非常に高い頻度です。

なぜ糖尿病患者様は眠れなくなるのか?

糖尿病患者様が不眠になりやすい理由には、身体的・精神的な複数の要因があります。

  • 多尿・夜間頻尿:高血糖状態では、尿の量が増える「浸透圧利尿」という現象が起こります。そのため夜間に何度もトイレに起きることになり、睡眠が細切れに分断されてしまいます。
  • 神経障害による痛みや不快感:糖尿病が長く続くと、手足の末梢神経がダメージを受け、痛みやしびれ、灼熱感などの症状(糖尿病性末梢神経障害)が出現します。これらの不快な感覚が夜間も続くため、入眠や睡眠の維持が困難になります。
  • 夜間低血糖:血糖コントロールのためにインスリンや血糖降下薬を使用している方では、睡眠中に血糖値が下がりすぎてしまうことがあります。低血糖は冷や汗や動悸、悪夢などを引き起こし、目が覚めてしまう原因となります。
  • 睡眠障害の合併:糖尿病患者様は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)やレストレスレッグズ症候群(RLS/むずむず脚症候群)といった他の睡眠障害を合併するリスクが高く、これらも不眠の大きな原因となります。
  • 精神的な負担とうつ病:糖尿病患者様は、一般の方に比べて約3~4倍もうつ病に罹患しやすいことが知られています。食事制限や運動療法、血糖測定などのセルフケアに伴う慢性的なストレス、低血糖への恐怖、将来の合併症への不安などが精神的な負担となり、うつ状態や不安を引き起こします。うつ病の主要な症状の一つが不眠であるため、この経路でも睡眠が障害されます。
不眠が糖尿病を悪化させる

興味深いことに、逆のルートも存在します。つまり、不眠症そのものが糖尿病の発症や悪化のリスク因子となることが研究で明らかになっています。

  • 糖尿病の新規発症リスク:不眠症、特に実際に睡眠時間が短くなっている場合には、2型糖尿病の新規発症リスクが約1.4倍に高まります。
  • 糖尿病予備群からの進行:糖尿病予備群(境界型)の方が2型糖尿病へ進行するリスクも、不眠があると1.59倍に上昇します。
治療によって双方が改善する可能性

重要なのは、不眠症の治療を行うことで、睡眠の質が改善するだけでなく、血糖コントロール(HbA1c値)も改善する可能性が報告されていることです。つまり、不眠を治療することは、糖尿病管理においても意味があるのです。
ただし、糖尿病患者様の不眠治療では、血糖値を上昇させるリスクがある薬剤や体重増加を引き起こしやすい薬剤など、使用に注意が必要なお薬があります。当院では、このような点に配慮しながら安全な治療を行います。
このように、糖尿病と不眠は互いに影響し合うため、血糖コントロールだけでなく、睡眠の状態や併存する睡眠障害の有無を確認し、適切な対処を行うことが非常に重要です。

甲状腺疾患と睡眠障害

甲状腺ホルモンの異常も睡眠に大きく影響します。甲状腺は首の前側にある小さな臓器で、全身の代謝を調節するホルモンを分泌しています。このホルモンのバランスが崩れると、精神状態や身体の代謝機能に影響が及び、睡眠の問題を引き起こします。
甲状腺疾患による精神症状や睡眠障害は、うつ病や不安障害などの精神科疾患と誤診されやすいため、不眠や精神不調を訴える患者様に対しては、まず甲状腺機能の異常がないかを血液検査(TSH、FT3、FT4など)で確認することが重要です。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)と不眠

甲状腺機能亢進症は、慢性不眠症に関連する身体疾患の一つとして重要です。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、全身の代謝が異常に亢進し、様々な症状が現れます。

  • 精神症状:活動性の高まり、過敏性、情緒不安定、イライラ(易刺激性)、不安感、焦燥感などの精神症状が特徴的です。
  • 身体症状:動悸、頻脈、発汗過多、手指の震え、体重減少、暑がりなどの症状も見られます。
  • 睡眠への影響:交感神経活動の亢進や身体的な不快感(動悸、発汗、熱感など)により、寝つきが悪くなったり(入眠困難)、睡眠の質が低下したりします。このため「眠りたいのに眠れない」という典型的な不眠状態を引き起こします。
甲状腺機能低下症(橋本病など)と睡眠

一方、甲状腺機能低下症では、ホルモンの分泌が不足するため、代謝全般が低下します。こちらは不眠(眠れない)というよりも、「過眠(眠気)」や「無気力」と関連することが多いですが、診断においては注意が必要です。

  • 主な症状:全身倦怠感、意欲の低下、思考の遅延、抑うつ気分、体重増加、寒がり、むくみなどが現れます。
  • 睡眠への影響:症状が進行すると、強い眠気(傾眠傾向)が現れることが報告されています
  • うつ病との鑑別:甲状腺機能低下症は、意欲低下や抑うつ気分などの症状から、うつ病と誤診されることがあります。うつ病自体は不眠を伴うことが多いため、実際には甲状腺機能低下症なのに「うつ病による不眠」と診断されてしまうケースもあり、注意深い診断が必要です。

このように、甲状腺疾患は睡眠に大きな影響を与えるため、不眠の原因を探る際には、甲状腺機能の評価が欠かせません。

その他の内科疾患と不眠

糖尿病や甲状腺疾患以外にも、様々な内科疾患が不眠の原因となります。

  • 呼吸器疾患(喘息、COPDなど):咳、呼吸困難、夜間の気管支収縮が睡眠を妨げます。また、治療薬(気管支拡張薬、ステロイド)自体が覚醒作用を持つことがあります。
  • 循環器疾患(心不全、高血圧):夜間呼吸困難や利尿薬による夜間頻尿が中途覚醒の原因となります。
  • 腎臓疾患(慢性腎臓病、透析):皮膚のかゆみ、痛み、レストレスレッグズ症候群の合併などが睡眠を妨げます。
  • 消化器疾患(胃食道逆流症):横になることで胃酸が逆流し、胸焼けや不快感が生じます。
  • 疼痛を伴う疾患(関節リウマチ、がんなど):痛みによって眠れず、眠れないことで痛みの感受性が高まるという悪循環が生じます。
  • 泌尿器疾患(前立腺肥大症など):夜間頻尿により睡眠が細切れに分断されます。

お薬による影響(薬剤性不眠)

内科疾患の治療のために服用しているお薬が、不眠の原因になっていることもあります。主な薬剤として、ステロイド(副腎皮質ホルモン)、降圧薬(ベータ遮断薬)、利尿薬、気管支拡張薬、インターフェロン製剤などが挙げられます。これらは覚醒作用や夜間頻尿を引き起こし、睡眠を妨げることがあります。服用中のお薬について医師に詳しく伝えることが大切です。

内科疾患を持つ患者様の不眠治療においては、まず原疾患(痛み、呼吸苦、頻尿など)のコントロールを最優先します。しかし、それだけでは不眠が解消しない場合には、睡眠衛生の指導や、必要に応じた睡眠薬の使用なども検討します。
重要なのは、身体の治療と睡眠の管理を並行して行うことです。

なぜ内科医が不眠症を診るのか

これまで見てきたように、不眠の原因は「心の問題」だけではなく、「身体の病気」や「薬の影響」など多岐にわたります。だからこそ、不眠症の診療には内科的な視点が不可欠なのです。

内科医の強み:身体を総合的に診る

内科医として不眠症を診る最大の強みは、身体を総合的に評価できることです。例えば:

  • 血液検査や身体診察:甲状腺機能、血糖値、腎機能など、不眠の原因となりうる内科疾患を客観的に評価できます。
  • 薬剤性不眠の評価:現在使用しているお薬を把握し、睡眠への影響を検討できます。
  • 安全な薬剤選択:糖尿病や腎機能低下など、内科疾患に応じた安全な処方ができます。

「まず身体を診る」という姿勢

睡眠薬を処方する前に、まず身体疾患が隠れていないかを確認する。これが内科医としての私たちの基本姿勢です。なぜなら、もし糖尿病による夜間頻尿や、甲状腺機能亢進症による交感神経の興奮が原因で眠れないのであれば、睡眠薬だけでは根本的な解決にならないからです。
私たちの目標は、単に診断名をつけることではありません。医師と患者様が協力して信頼関係を築き、あなたの症状だけでなく、背景にある身体の状態や生活環境を含めて包括的に捉えることを目指します。治療方針は話し合いを通じて決定し、患者様が納得し、主体的に治療に取り組めるよう、最適な解決策を一緒に見つけていきます。

当クリニックでの内科的アプローチ

Step 1:丁寧な問診と身体評価

治療の第一歩は、丁寧な問診と身体評価です。以下のような点を詳しくお伺いし、評価します:

  • 不眠の症状(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)とその経過
  • 現在治療中の内科疾患(糖尿病、高血圧、甲状腺疾患など)の有無
  • 現在服用中のお薬(薬剤性不眠の可能性を評価)
  • 夜間頻尿、痛み、呼吸困難など、睡眠を妨げる身体症状の有無
  • 生活習慣(アルコール、カフェイン、運動など)

Step 2:必要に応じた内科的検査

問診の結果、身体疾患が疑われる場合には、以下のような検査を行います:

  • 血液検査:甲状腺機能(TSH、FT3、FT4)、血糖値(空腹時血糖、HbA1c)、腎機能、肝機能、貧血の有無など
  • 身体診察:バイタルサイン、甲状腺触診、心音・呼吸音の聴診、浮腫の有無など
  • 必要に応じて、専門的な検査(睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングなど)を検討

Step 3:原疾患の治療と並行した不眠への対応

身体疾患が見つかった場合には、まずその治療を優先します。例えば:

  • 甲状腺機能亢進症であれば、甲状腺ホルモンのコントロール
  • 糖尿病であれば、血糖コントロールの改善
  • 夜間頻尿があれば、利尿薬の服用時間の調整や前立腺肥大症の治療
  • 薬剤性不眠が疑われる場合は、可能であれば原因薬剤の変更や服用時間の調整

Step 4:安全で個別化された薬物療法

原疾患の治療だけでは不眠が改善しない場合、睡眠衛生の指導とともに、必要に応じて薬物療法を検討します。その際、内科医として最も重視するのは「安全性」です。

特に内科疾患をお持ちの方には、使用できないお薬があります。例えば、糖尿病の患者様には、血糖値を上昇させるリスクがあるオランザピン(ジプレキサ)やクエチアピン(セロクエル)は禁忌(使用できません)です。当院では、このような身体的リスクを十分に考慮した上で、安全なお薬を選択し、一般的な不眠症治療を行います。

しかし、このような治療を行っても不眠が改善しない場合や、うつ病などの精神疾患が疑われる場合には、より専門的な治療が必要と判断し、精神科・心療内科への紹介を検討いたします。すでにかかりつけの精神科医がいらっしゃる患者様には、診療情報提供書を通じて身体疾患の情報を共有し、連携して治療を進めてまいります。

まとめ

記事のポイント

  • 不眠の約40%は身体疾患が原因であり、心の問題だけではありません。
  • 糖尿病、甲状腺疾患、呼吸器疾患、心不全、腎臓病など、様々な内科疾患が不眠を引き起こします。
  • 治療中のお薬(ステロイド、降圧薬、利尿薬など)が不眠の原因になっている場合もあります。
  • 内科医として、血液検査や身体診察を通じて、身体面から不眠の原因を探ることができます。
  • 糖尿病など内科疾患をお持ちの方には、禁忌薬を避けた安全な処方を行います。

こんな症状があったら、まず内科へご相談ください

  • 夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)
  • 動悸、息切れ、胸の苦しさがある
  • 手足の痛みやしびれがある
  • 最近体重が急に増えた、または減った
  • 暑がり、または寒がりになった
  • イライラや気分の変動が激しい
  • 複数のお薬を服用している
  • 糖尿病、高血圧、甲状腺疾患などで治療中

「たかが不眠」と思わず、もし眠れないことでお困りでしたら、一人で悩まずに当院へご相談ください。
内科医としての視点を生かし、まず身体を診ることから始めます。
そして、身体疾患の管理を行っても不眠が改善しない場合や、精神的な問題が疑われる場合には、必要に応じて精神科医とも連携しながら、あなたの苦しみを和らげるための最適な方法を一緒に探していきましょう。

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