インスリン療法について知っておきたいこと
始めるタイミングと製剤の種類
インスリン療法と聞くと、「注射が怖い」「一生続けることになるのでは」と不安を感じる方も少なくありません。この記事では、インスリン療法がどのようなものか、どのような状況で必要になるのか、製剤の種類などについてわかりやすくご説明します。
1. まず知っておきたいこと
インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンで、食事からとった糖を体の細胞に取り込むために欠かせない物質です。インスリンには、空腹時に少量ずつ継続的に分泌される「基礎分泌」と、食事の際に大量に分泌される「追加分泌」の2種類があります。
糖尿病では、このインスリンが十分に分泌されなくなったり、分泌されていても体が思うように反応しなくなったりすることで、血糖値が高い状態が続きます。血糖値が高い状態が長期にわたると、インスリン分泌能がさらに低下することがあるとされています(「ブドウ糖毒性」)。
インスリン療法は、こうした場合に、不足したインスリンを体の外から注射で補う治療法です。
2. インスリン療法が必要になるとき
インスリン療法の適応は、大きく「絶対的適応」と「相対的適応」の2つに分けられます。どのような場合に該当するかは個々の状態によって異なります。
絶対的適応(インスリン療法を行わないと生命にかかわる場合など)
- インスリン依存状態
- 高血糖性昏睡(糖尿病性ケトアシドーシス・高浸透圧高血糖状態)
- 重度の肝障害・腎障害を合併しているとき
- 重症感染症、重度の外傷、中等度以上の外科手術のとき
- 糖尿病合併妊婦(食事療法だけでは血糖管理が難しい場合も含む)
- 静脈栄養時の血糖管理
相対的適応(インスリン療法のメリットが大きい場合)
- 著明な高血糖(空腹時血糖値 250 mg/dL 以上、随時血糖値 350 mg/dL 以上など)がある場合
- 経口薬療法だけでは良好な血糖管理が得られない場合
- やせ型で栄養状態が低下している場合
- ステロイド治療時に高血糖を認める場合
- 糖毒性を積極的に解除する場合
上記はあくまでも一般的な目安です。実際にインスリン療法が必要かどうかは、年齢・血糖コントロールの目標値・インスリン分泌能・ライフスタイルなどを総合的に考慮したうえで、担当医が判断します。
3. インスリン製剤の種類
インスリン製剤は、作用が始まる時間や持続時間によっていくつかの種類に分けられます。作用時間の目安は以下のとおりです。
| 種類 | 効果発現 | ピーク | 持続時間 |
|---|---|---|---|
| 超速効型 | 10〜20分 | 1〜1.5時間 | 3〜5時間 |
| 速効型 | 30分〜1時間 | 1〜3時間 | 5〜8時間 |
| 中間型 | 1〜3時間 | 4〜12時間 | 18〜24時間 |
| 混合型 | 製剤による | 製剤による | 製剤による |
| 配合溶解型 | 超速効型に準じる | 超速効型に準じる | 持効型に準じる |
| 持効型溶解型 | 1〜2時間 | 明確なピークなし | 24時間以上 |
各製剤の特徴を簡単にご説明します。
超速効型インスリン製剤
食後の血糖値(追加分泌)を補う製剤です。効果の発現が速いため、通常は食直前または食事開始後20分以内に投与します。また、近年ではルムジェブやフィアスプといった 効果の発現がより速いインスリンもあります。
速効型インスリン製剤
超速効型に比べると効果が出るまでに時間がかかるため、食前30分を目安に投与します。最も基本的なヒトインスリン製剤です。
中間型インスリン製剤
作用時間が18〜24時間と長く、通常1日1〜2回投与します。投与前に十分に混和する必要があります。
混合型インスリン製剤
速効型または超速効型と中間型を混合した製剤です。1本で基礎分泌と追加分泌の両方を補うことができます。
配合溶解インスリン製剤
超速効型と持効型溶解インスリンを配合した製剤です。混合型と異なり、透明な製剤のため混和が不要です。
持効型溶解インスリン製剤
1日1回の注射で24時間以上にわたって安定した作用が持続する製剤で、基礎分泌を補うことを目的としています。明確なピークがなく、低血糖のリスクが比較的少ないとされています。
どのインスリン製剤が適しているかは、血糖コントロールの状況・生活リズム・注射の回数・インスリン分泌能などをふまえ、相談しながら選択します。患者さん個人の状況によって最適な製剤は異なります。
4. インスリン療法に不安を感じたら
インスリン療法を勧められたとき、さまざまな不安を抱く方は少なくありません。インスリン療法を開始していない2型糖尿病の患者さんを対象にした調査では、86.7%の方がインスリン治療に抵抗感を持っているという報告があります [1]。
また、17ヵ国の糖尿病患者・家族・医療従事者を対象としたDAWN2™調査では [2]、日本の糖尿病患者の約半数(47.9%)が「糖尿病が身体的健康に悪影響を及ぼしている」と感じており、低血糖への不安も大きいことが示されています。一方、「不安やうつ状態があるか」を医療従事者から確認されたと答えた日本人患者の割合は15.9%にとどまり、調査参加17ヵ国中最下位でした。不安を感じていても、医療者に伝えられていない方が少なくないと考えられます。
よくある不安について、以下にまとめます。
「注射は痛そう・怖い」
現在使用されているインスリン注入器の針は非常に細くなっています。実際に試してみると、「想像していたより大丈夫だった」と感じる方も多いとされています。最初は医師や看護師がそばで手技を確認しながら導入を進めていきます。
「インスリンを使い始めたらやめられないのでは?」
インスリン療法は、病態や血糖コントロールの状況によっては、将来的に減量や中止を検討できる場合もあるとされています。ただし、これは個々の病状によって大きく異なりますので、詳しくは担当医にご相談ください。
「低血糖が心配」
低血糖はインスリン療法に伴うリスクの一つです。療養指導の中で、低血糖の症状・対処法・予防策についても事前に説明を受けることができます。血糖モニタリングを行いながら、適切な量を調整していきます。不安に感じることは、遠慮なく医師や看護師・薬剤師にお伝えください。患者さん一人ひとりの気持ちや生活状況に寄り添いながら指導を進めていくことが重要かと考えております。
5. 受診・相談を考える目安
以下のような状況がある場合は、担当の医師にご相談ください。
- 経口薬を使用していても血糖値やHbA1cがなかなか目標に達しない
- 血糖値が非常に高い状態が続いている
- インスリン療法を勧められたが、疑問や不安がある
- 自己注射の手技や注入器の使い方について不安がある
6. まとめ
- インスリンは血糖を調整するために必要なホルモンです。糖尿病では分泌が不十分になることがあります
- インスリン療法の適応は「絶対的適応」と「相対的適応」があり、個々の状況をもとに担当医が判断します
- インスリン製剤には作用時間の異なるさまざまな種類があり、生活リズムや血糖パターンに合わせて選択します
- 血糖コントロールに関するご不安・疑問は、早めに医療機関へご相談ください
糖尿病やインスリン療法についてお悩みや疑問をお持ちの方は、お気軽に医療機関へご相談ください。当院でも、糖尿病・生活習慣病に関するご相談を承っています。受診をご希望の方は、ホームページの予約案内をご確認ください。
引用文献
[1] 石井 均 . 糖尿病インスリン治療②─2型糖尿病患者へのインスリン治療導入:納得できましたから始めます─ . Mebio . 2010 , Vol.27 , No.1 , p.16-18 .
[2] 林野泰明, 石丸吹雪, 門脇孝, 石井均 . DAWN2™調査より考察する世界における糖尿病治療の心理的側面と日本の課題 . 糖尿病 . 2016 , 59巻 , 9号 , p.652-660 .
【免責・注意事項】
この記事は、一般的な医療情報の提供を目的として作成しています。記載している内容は、症状や病気について理解を深めるための参考情報であり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。
実際の症状、検査結果、治療の必要性や治療内容は、年齢、体質、持病、服薬状況などによって異なります。気になる症状がある場合や、健診結果について不安がある場合は、自己判断せず、医療機関にご相談ください。
当記事は、作成時点で参照した資料にもとづいて作成していますが、医療情報は今後更新されることがあります。最新の情報やご自身に適した対応については、医師の診察のもとでご確認ください。
