メニュー

高齢者の糖尿病とは?

[2026.04.01]

知っておきたい特徴と気をつけたいポイント

高齢になると、糖尿病の管理の仕方は若い頃とは少し異なってきます。低血糖への注意、筋力の低下、認知機能など、さまざまな面に目を向けながら、無理なく続けられる治療を考えることが大切です。この記事では、高齢者の糖尿病の特徴と、気をつけていただきたいポイントについてわかりやすくご説明します。

1. まず知っておきたいこと ── 高齢者の糖尿病の特徴

一般に65歳以上の方の糖尿病を「高齢者糖尿病」とよびます。2019年に行われた国民健康・栄養調査によると、70歳以上の男性の26.4%、女性の20.4%に糖尿病があることが報告されており、超高齢社会となった現在も増加傾向が続いています。

高齢者の糖尿病には、若い世代とは異なる特徴があります。食後に血糖が上がりやすい一方で、低血糖(血糖が下がりすぎる状態)に対する体の反応が鈍くなりやすいため、気づかないうちに低血糖になってしまうことがあります。加齢とともに重症低血糖の頻度が増えることも知られています。

また、加齢に伴って腎臓や肝臓の機能が低下しやすく、薬が体内に蓄積しやすくなるため、薬による副作用が出やすい面もあります。さらに、高血圧や心臓の病気、関節の問題など、複数の病気を同時に抱えている方も多く、それぞれの治療が複雑になりやすいことも特徴のひとつです。

加えて、個人差がとても大きいことも重要な点です。同じ「75歳」でも、元気に自立して生活されている方もいれば、日常生活に介助を要する方もいます。そのため、治療の目標や方針は、一人ひとりの状態に合わせて個別に考えることが大切とされています。

2. 気をつけたい状態 ── フレイル・サルコペニア・認知機能

フレイル(虚弱)とは

「フレイル」とは、自立した状態から要介護状態へと移行する中間的な段階で、「虚弱」とも表現されます。身体的な問題(筋力低下・転倒しやすいなど)だけでなく、認知機能の低下や気力の低下、経済的・社会的な孤立なども含む多面的な概念です。糖尿病の方ではフレイルになりやすいことが知られており、血糖コントロール不良(高血糖・低血糖ともに)の方でフレイルのリスクが高まるとされています。

サルコペニア(筋肉量・筋力の低下)

「サルコペニア」とは、加齢などによって筋肉量や筋力、身体機能が低下した状態です。糖尿病とサルコペニアは悪循環を形成しやすいとされており、高血糖の持続が筋肉のタンパク合成を妨げる一方、筋肉量が減るとインスリンが効きにくくなり、血糖コントロールがさらに悪化するという関係にあります。

BMIが低い方(22.3kg/m²未満)でHbA1cが高い(8%以上)場合にサルコペニアの頻度が高いことが国内の多施設調査で示されています。また、低血糖の既往がある方でフレイルの発症リスクが有意に高かったという報告もあり、低血糖を起こさない血糖管理も筋肉・体力を守るうえで重要と考えられています。

認知機能の低下と糖尿病

糖尿病の方では、そうでない方に比べてアルツハイマー病になりやすいことが報告されており(約1.5倍)、血管性認知症については約2倍 なりやすいというメタ解析の結果があります。また、軽度認知障害(MCI)にも約1.5倍なりやすく、MCIから認知症への移行も約2倍起こりやすいとされています。

認知機能が低下すると、薬の飲み忘れ、インスリン注射の管理、血糖測定など、治療を自分で続けることが難しくなっていきます。重症低血糖も認知症発症リスクを高めることが報告されており、認知機能の維持という観点からも、低血糖を防ぐことの重要性が強調されています。

3. 血糖コントロールの目標はどう考えるか

高齢者の血糖コントロール目標は、若い方と同様に一律には設定されません。日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が定めた方針では、患者さんの認知機能・日常生活動作(ADL)・併存疾患の状態に基づいて「カテゴリーI・II・III」の3つに分類し、それぞれに合った目標HbA1c値を設定することが推奨されています。

カテゴリーの目安

カテゴリーI :認知機能が正常で、ADLが自立している
カテゴリーII:軽度の認知障害がある、または手段的ADL(買い物・金銭管理など)が低下している
カテゴリーIII:中等症以上の認知症、または基本的ADL(食事・移動・トイレ)が低下している、あるいは多くの併存疾患がある

特に、インスリン製剤やSU薬(スルホニルウレア薬)など、低血糖を起こしやすい薬剤を使用している場合には、目標HbA1cの下限値(下げすぎない目安)も設けられています。「血糖を下げすぎないこと」も、高齢者の糖尿病管理における大切なポイントのひとつです。
治療目標はあくまで目安であり、年齢・罹病期間・低血糖の危険性・サポート体制などを考慮して、一人ひとりに合わせた設定が求められます。

4. 気をつけたい合併症 ── 心不全・認知症

心不全との関係

糖尿病を合併すると、心不全の発症リスクは1.7〜3.3倍に高くなるとされています。また、急性の心不全で入院した患者さんの約35%に糖尿病が併存しているという報告もあり、両者の関係は密接です。高血糖・高インスリン血症・インスリン抵抗性が心筋の機能に影響を与えるほか、糖尿病に伴う高血圧や肥満なども心臓への負担につながると考えられています。

特に近年は、「心不全を合併した(またはリスクの高い)糖尿病の方」に対して、特定の薬剤(SGLT2阻害薬)が心不全の悪化を抑制することが複数の大規模試験で示されており、治療薬の選択においても注目されています。ただし、高齢者がこの薬剤を使用する際には、脱水・サルコペニアの悪化・感染症などへの注意も必要とされています。

認知症との関係

前述のとおり、糖尿病の方ではアルツハイマー型認知症・血管性認知症ともになりやすいことが報告されています。高血糖の持続、重症低血糖、血糖の大きな変動、動脈硬化の進展などが、脳の微小血管障害やアミロイドの蓄積に関わると考えられています。適切な血糖管理・血管性危険因子の治療・運動・低栄養の予防などが、認知機能を維持するうえで重要とされています。

5. 食事・運動・薬について

食事療法のポイント

高齢者の糖尿病では、「食べすぎを減らす」ことよりも「必要な栄養をしっかり摂る」ことが大切になる場面もあります。サルコペニアやフレイルのリスクを考慮する場合、目標体重はBMI 22〜25 kg/m²を目安とすることが「糖尿病診療ガイドライン2019」に明記されています。

タンパク質については、高齢者では筋肉のタンパク合成能が低下しているため、若い世代よりも多めの摂取が必要とされており、1日1.2g/目標体重kgを目安とすることが推奨されています。1回の食事で均等にタンパク質を摂ること、3食均等にタンパク質を摂ることが筋肉量の維持に有効とされています 。ただし、腎臓の機能が低下している方では、タンパク質の量を制限する必要もあるため、主治医・管理栄養士と相談しながら進めることが大切です。

また、ビタミンDは骨や筋肉の維持に重要な栄養素で、高齢者では不足しやすいとされています。魚介類など、ビタミンDを多く含む食品を意識的に摂ることも一つの工夫です。

薬物療法の注意点

高齢者の糖尿病治療には、さまざまな種類の薬が使われますが、低血糖を起こしにくい薬剤(DPP-4阻害薬、メトホルミン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬など)が安全性の観点から重視されることが多くあります。一方で、インスリン製剤やSU薬は有効な薬剤ですが、低血糖への注意が特に必要です。

高齢者では、複数の病気のために多くの薬を服用する「ポリファーマシー」が問題となりやすく、6種類以上の薬剤投与で薬剤有害事象のリスクが高くなることが知られています。治療の単純化・処方の見直しも重要な視点であり、医師や薬剤師、介護者と連携しながら管理することが求められます。

注射薬(インスリン・GLP-1受容体作動薬)が必要な場合は、注射の回数を最小限にすること、家族や介護者も指導を受けておくことなど、生活環境に合わせた工夫が大切です。

6. 受診や相談を考える目安

以下のような変化がある場合は、早めに医療機関に相談することをお勧めします。

  • 残薬が増えてきた、薬を飲み忘れることが増えた
  • 通院に付き添いが必要になってきた、または一人での外出が難しくなってきた
  • 体重が最近著しく減った、または食欲が明らかに低下した
  • 気づかないうちに低血糖になっていることがある(冷や汗・ふらつき・動悸など)
  • 物忘れが目立つようになった、日常生活の動作に時間がかかるようになった
  • 息切れ・むくみなど、心臓に関わる症状が気になる

高齢者の糖尿病は、検査値だけでなく日常生活の状態や身体機能・認知機能・栄養状態など、多面的な評価に基づいて管理していくことが大切です。ご本人だけでなく、ご家族や介護者の方も医療者と情報を共有しながら、一緒に治療を支えていただくことが重要です。

7. まとめ

  • 高齢者糖尿病は、食後高血糖・低血糖リスク・腎機能低下・ポリファーマシーなど、若い世代とは異なる特徴があります。
  • フレイル・サルコペニア・認知機能の低下は、糖尿病と深く関連しており、血糖コントロールだけでなく栄養・運動面にも配慮が必要です。
  • 血糖の目標値は一律ではなく、認知機能・ADL・併存疾患などを踏まえて個別に設定します。「下げすぎない」ことも大切です。
  • 心不全・認知症などの合併症は、早期から意識して管理することが重要です。
  • 食事・薬・生活環境など、トータルで支えていく視点が、高齢者の糖尿病管理には欠かせません。

受診・ご相談について

高齢者の糖尿病について気になることがある方、健診で血糖値・HbA1cを指摘された方は、早めに医療機関へご相談ください。当院では、糖尿病や生活習慣病についてのご相談を受け付けております。受診をご希望の方は、ホームページの予約案内もご確認ください。

免責・注意書き

この記事は、一般的な医療情報の提供を目的として作成しています。
記載している内容は、症状や病気について理解を深めるための参考情報であり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。

実際の症状、検査結果、治療の必要性や治療内容は、年齢、体質、持病、服薬状況などによって異なります。
気になる症状がある場合や、健診結果について不安がある場合は、自己判断せず、医療機関にご相談ください。

当記事は、作成時点で参照した資料にもとづいて作成していますが、医療情報は今後更新されることがあります。
最新の情報やご自身に適した対応については、医師の診察のもとでご確認ください。

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME